スプレッドと勝率の関係【後編】

この記事では「勝ち目のあるスプレッドはいくつなのか」をシミュレーションで導きます。

前編の記事の続きです。

先に結論「スプレッドは損益幅の10%以内」

シミュレーションに興味がない方もいると思いますので、とりあえず結論だけ先に。

スプレッドは損益幅の10%以内にまで」というのが結論です。

例えば「利確・損切を±20pipsでトレードするならスプレッドは2pips以内」という意味です。逆から言い換えて「スプレッドが2pipsの通貨をトレードするなら利確・損切を±20pips以上取ること」と考えてもOKです。

以下はこの結論に至ったシミュレーション内容の説明です。

スプレッドと勝率の関係をシミュレーション

前回の記事で、利幅・損切幅を広げることでスプレッドのハンデが軽減されて勝率が上がることを説明しました。では具体的にどれだけの損益幅を取れは良いかをランダムウォークのモデルでシミュレーションします。

シミュレーションの方法

シミュレーションの概要

価格変動をランダムウォークで設定し、スプレッドと損益幅を変化させたときの勝率を調べます。今回は次のような価格変動をするモデルを設定しました。

価格変動モデル
価格が上昇する確率は50%、下落する確率は50%
価格変動は+1pipsまたは-1pips

あらかじめスプレッドと損切幅を決めておいて、上記のモデルに従って価格が動いたときの勝率を調べます。

とりあえず1パターン

まずは試しにスプレッドを1pips、損益幅を±10pipsでロングするとして10回シミュレーションした結果が下図です。

ランダムウォークのテスト

横軸は経過時間、縦軸は価格変動幅の累計です。時間経過とともに変動幅が大きくなっていき、指定した損益ラインに到達したらシミュレーションを終えます。

スプレッドが1pipsなので、価格が+11pips上昇したら勝ち、-9pips下落したら負けとなっていることに注目ください。

これを1万回シミュレーションすると勝率は45.25%となりました。勝ち負けそれぞれに必要な価格変動の大きさの比と考えれば妥当な値ですね。

損益幅を変化させた時の勝率

ではいよいよ本番です。スプレッドを2pipsとし、損益幅を0pipsから±100pips(利確幅+100pips、損切幅-100pipsという意味)まで変化させました。その結果が下のグラフです。

損益幅と勝率の関係

なかなか面白い結果になりました。損益幅を大きくしていくとはじめはグーンと勝率が上昇し、次第にそれが緩やかにって最終的には50%に近づきます。

このグラフから2つのことが言えます。

  • 損益幅が小さいと勝率が低い
  • ある程度の損益幅を取ると勝率は五分五分に近くなる

上のグラフでは、損益幅±20pipsあたりで勝率が五分に近くなっています。つまり、スプレッド2pipsの場合は損益幅を±20pips程度取るとスプレッドのハンデを吸収できると言えそうです。

ちなみに損益幅20pipsのときの勝率は約45%です。あと5%分をトレード手法で埋めることができれば勝ち越しです。


もう少し汎用的な値を探すため、次にスプレッドを変えて同じシミュレーションを行いました。

スプレッドを変えるとこうなる

今度はスプレッドをスプレッドを1pips、2pips、5pipsの3パターンで行いました(下図)。

いくつかのスプレッドの結果

どのグラフも形は似ています。違いは最初のグーンと伸びる部分です。スプレッドが大きくなると勝率が五分に近づくのが遅くなるという傾向が分かります。

勝率が五分に近づくために必要な損益幅は以下のとおり。

スプレッド 必要な損益幅
1pips ±10pips
2pips ±20pips
5pips ±50pips

つまり「スプレッドのハンデを吸収するには、スプレッドの10倍の利確幅・損切幅が必要」ということですね。

まとめ「スプレッドは損益幅の10%以内」

今回は「勝ち目のあるスプレッドはいくつなのか?」をシミュレーションし、その結果「スプレッドの10倍の利確幅・損益幅を取ると良い」ということがわかりました。

10パーセント

言い換えると「スプレッドは最大でも利確幅・損切幅の10%以内」とも言えますね。

この目安を頭の入れてくと「ここは利幅がないからスプレッド負けするな」とすぐに気が付くので、不利な状況でのエントリーを防ぐことができます

またインジやEAを作れる方なら、エントリー条件の候補として検討するのもありかもしれません。

適当にトレードしているといつの間にかスプレッド負けが積み上がってしまいます。私もかつてそうでした。利幅・損益幅をある程度確保して、不利な状況を避けてトレードしていくと良いですよ。

補足

この記事の内容は、損益比率が1(利確:損切幅=1:1)でトレードした場合のものです。損益比率1以外の場合は結果が異なります。

コメント

この記事へのコメント(4 件)

  • バビロンさんより

    貴重な検証ありがとうございます。経験的にそうだろうと思っていましたが、こうやって検証していただくことで明確に納得できました。

    関連する話題で管理人さんに質問させてください。
    ライントレードにおける損切りを一般的にどの程度離すべきだとお考えですか?ボルマンやアルブルックスは5分足チャートにおいてシグナル足から1pips 離すそうですが、しっかりした支持線、抵抗線を背にしてる場合、自分の経験からもこれで充分だと感じます。使うチャートのATRや仕掛けに使うレンジの幅から、ある程度一般的な回答があると思われます。検証は難しいと思いますが、知識や経験を教えていただけると嬉しいです。

  • 管理人ですさんより

    バビロンさんへ
    コメントありがとうございます。
    さてご質問についてですが、「損切ラインはどれだけ余裕(遊び)を取ればよいか?」ということですね。
    検証したことはないので完全に私の主観ですが、「その人の手法・スキル・考え方に応じて決めるのが良い」というのが私の考えです。

    そもそも損切ラインに余裕を取るのはなぜかを考えると大きく2つの理由があると思います。
    ①そのラインがぼんやりしていて境目がはっきりしないため
    ②ダマシやストップ狩りにやられないため

    ①はトレーダーが用いている手法やトレーダーのスキルによります。手法やスキルが優れていて明確なラインを引くことができれば損切ラインの余裕は小さくて良いでしょう。
    ②については、ダマシはあきらめてタイトな損切にするかそれともダマシもカバーできる余裕をもたせるかという選択の話です。

    ①②あたりの観点から自分のトレードに合った損切り設定方法を考えると納得感や合理性のある結論が出せると思いますよ。
    ちょっと精神論みたいになってしまいましたね。すいません。

    ちなみに私は損切ラインにはけっこう余裕を大きく持たせています。

  • バビロンさんより

    お返事ありがとうございます。
    損切ラインを二つの理由に分けて考えたことはなかったので、お話を聞けて勉強になりました。
    損切りを詰めてリスクリワードレシオを向上させたいのですが、支持線抵抗線の不確実さを考えると、リスクを減らすよりリワードで高めていく方が(自分の理解ではリワードの方が考慮出来る要素が少ないため)、少なくとも論理的には単純明確に判断出来る局面が多そうですね。
    デイトレードにおいては明らかに手仕舞いより仕掛けが大事なので、仕掛けの側ばかり考えていましたが、改めて手仕舞いの重要性に気づかされました。

    管理人さんの分類に自分なりの考察を加えると
    ① 境界が曖昧な場合、ライン(ゾーン)とみなせる最大値まで引きつけてから仕掛けるか(最大値より前で反発して機会損失する可能性が高いが)か、ラインが収束して明確になるまで待つ(明確なスクイーズ自体稀なので機会が少ない)ことで損切りを詰める。
    定量的にラインの幅を決めることは困難ですが、リスクリワードレシオ1以上のみで仕掛ける、スプレッドが10%未満の値幅のみに絞ることを条件にすれば、論理的に破綻したトレードは避けることが出来そうですね。
    レンジのフェイドトレード(逆張り)においては、ラインの限界範囲をレンジ幅の4分の1程度など一応決められるのではないかと考えていましたが、正の期待値が期待できる中で、文脈やボラティリティやモメンタムなどから個別的に判断していく方が、やはり実践的なのかもしれませんね。
    ②スマートマネーは確実にストップの位置を把握していることを考えると、ストップ狩りが届かないほど余裕を持たせるか、そもそも強力な支持線抵抗線を利用してラインが割られたら負けが明確な場合のみ、損切りを詰めるしかないですね。
    結局、強力な支持線抵抗線とは何かと言う根本問題が残りますが、出来るだけ客観性の高い数値を使う(例えば前日の四本値)ことや、時間や出来高の集積で、ある程度評価できるのではないかと考えています。
    ダマシの回避についてはかなり調べましたが、当然に明確な指南はなかったです。唯一、トレンド方向のダマシは失敗しやすい(ブレイクアウトしやすい)ことは信憑性があり、自分の経験からも正しいです。なのでオールウェイズイン(常にブルかベアかを二択すること)を決めて、レンジでも反トレンドのブレイクアウトのダマシが決まりそうな状況を狙って、最高のリスクリワードで逆張りする(ワイコフメソッドではこれをup-thrust, springと言うそうです)のが良いようです。(偉そうに言いましたが、自分も怖くてなかなかうまく出来ません。)

    長文の回答ありがとうございます、ブログこれからも楽しみにさせて頂きます。

  • 管理人ですさんより

    バビロンさんへ
    詳細な考察ありがとうございます。身近にこういった話をできる知り合いがいないのでとても刺激を受けます。
    バビロンさんが書かれた
    >支持線抵抗線の不確実さを考えると、リスクを減らすよりリワードで高めていく方が
    という箇所に共感を覚えます。私はストップ狩りやダマシもかわせるように損切は結構広めにする傾向があります。それでも利益を残せるようにリワードの高い場合のみエントリーするようにしています。リワードの低い(順方向に障害の多い)状況では入らないようにしています。おかげで機会損失が多いのが課題です。機会損失を減らすにはバビロンさんと同じく損切を切り詰める必要があるのですが、私のトレード力では難しいのが実情です。
    バビロンさんは自力で知識の収集されていますし論理的な思考をされる方のようですからスキルアップが早そうですね!
    久しぶりにわくわくする話題のコメントを頂けたので楽しかったです。
    ブログはたまにしか更新していませんが、また機会がありましたら是非お立ち寄りください。